さくらんぼ

 毎年、この季節になると、我が家の小さなお庭の実桜がかわいいさくらんぼの実をたわわにつけて楽しませてくれる。あっという間に実を鳥に啄ばまれてしまうので、その前に早く取らないといけないのに、うっかりしていて、週2回、集配に来てくれてるクリーニング屋さんに教えてもらったりして、あわてて、収穫するのだけれど、今年は、あまりにも実がなりすぎて、さすがのうっかり屋のわたしも、朝の水遣りの時に気がついたのだった。でも、数が多い代わりに、一つ一つの実は例年に比べて幾分小さいような気がする。ジャムにでもしようかな?と思ったり、でも、種があるから大変だなぁ〜と、毎日ながめている。
 実桜ではないけれど、淡いピンク色の桜の想い出は、遥かな初恋の記憶につながる。
三島由紀夫本居宣長小林秀雄・・・きっと、みんな桜を愛した文人達・・・そんな人たちの文章を抜粋しては手紙を送ってくれていた人と共有した20歳の頃の精神風景。その頃好んで読んでいた岡部伊都子さんや森有正さんのエッセイ集、辻邦雄さんの小説などなど。それらの記憶が、桜を見ると思い起こされてくるのかもしれない・・・
 こころの中にたくさんの秘密の引き出しがあるのは楽しい。時々、引き出しを開けては、また閉める。歳月が経つと、その時は、切なかったり悲しかったこともみんな美しいセピア色の想い出に変わっている。もっと、たくさん、複雑な引き出しを作っておいたら、後になって、もっと楽しかったのかもしれないけれど、わたしの引き出しは、明るくてシンプルで影がないのが、ちょっと物足りないくらいだ。
 さくらんぼから、いろんなことを思い出してしまったようだ。